「サラリーマン」の解放はそう遠くはない

Daxtra Technologies Japan 代表 矢野広一

2018年も中盤に入った中、日本の転職市場が急速に変化してきていることを否定する人は少ないと思います。

この根底にあるのは、今日のデジタル経済において多くのエコノミストがもはや限界にきていると考えている日本の長年の「終身雇用」モデルの終焉です。

「サラリーマンとは何ですか?」
この用語になじみのない方に説明をしますと、日本では大学を卒業し、ソニーや野村、東芝といった知名度の高い会社に入社し、そして定年まで約40年間その会社と一緒にいる、基本的には男性のことを意味します。

良いか悪いかは別として、グローバリゼーションの波は、他の先進諸国においてはこの「終身雇用」モデルをずっと以前に終焉させました。例えば米国では「終身雇用」というのは「雇用された男性」が主要な所得者である一方で、多くの女性が専業主婦として扶養家族になっていた1950年代をイメージさせます。

しかし、日本では縦社会と年功序列で統制を維持するという国家の考えにより、この「終身雇用」という考え方は外部からの影響を排除しつつ、脈々と継続されてきた背景があります。安倍晋三氏自身も、改革の最大の理由は、日本の労働文化を変えることだと語っています。1

なぜ「サラリーマン」モデルは限界にきているのか?

サラリーマンモデルの課題の一つは、急速に変化するデジタル経済において勤める会社の業績によって自分と家族の生活が一気に不安定になるかもしれない、その柔軟性の無さです。

昇進を勝ち取るために、日本のサラリーマンは長時間労働を余儀なくされます – 人によっては常軌を逸した労働時間の人もいるでしょう。この労働時間とは、オフィスでの長時間勤務だけでなく、勤務時間終了後の上司や同僚とのいわゆる「つきあい」の時間も含まれます。

日本の労働時間

The Guardian; Japan TimesJapan Times; Expedia Japan

その結果、家事と子育ては女性の分担となるので、女性の労働力が大幅に減少するという状況になりました。

これは二つの大きな問題を生じさせています。
一つは 世界的にも圧倒的に低い出生率によって、日本は現在深刻な高齢化社会にあり、多くの雇用者は経済のけん引役となっている「デジタル テクノロジー」に縁遠い高齢者だということです。

もう一つは、専業主婦になった女性の専門的な労働力を失ったことです。
その結果、革新的で豊かな未来を創造できる可能性を持った女性や若くパワフルな人材層を失っています。

意識改革がけん引する働き方改革

何が変わってきているのか?

海外の転職市場も見てきた私の経験値でいえば、ほんの数年前までは日本では「転職」という行為に対しての見方が基本的には否定的な響きがありました。転職をするという行為は、しばしばコミットメント、忠誠心、一貫性、献身の欠如を意味していました。

しかし転職に関する意識はかなり変わってきています。 日本は他の先進国市場と違い、今でも2年から3年ごとに転職を繰り返す人はあまり評価されません。海外の場合だと転職の回数ではなく、転職の動機や目的などの内容を重視するのですが、いずれにせよ転職という行為に対する社会的な意識は変わりつつあります。

2,3年で転職を繰り返す人は、まだ日本では「Jumpy」(定着できない人)というイメージがありますが、ある程度の経験がある人が5年ごとに転職して、確実にキャリアアップするケースは日本でもかなり見られるようになっていました。

日本での転職事例

Reuters

この意識改革は結果として男女ともに40歳以上の経験豊富な専門家とフリーランサーの採用市場を開放しました。クラウドソーシングのランサーズ社によると、2017年5月中旬には1122万人がフリーランサーとして働き、前年より約5%増加しています。2

より良いHRテクノロジーで働き方改革をナビゲートする

日本の転職市場におけるこのような地盤変化をうけ、人材紹介企業とHRテクノロジー企業の両リーダーはこの世界第3位の経済大国に大きな投資を始めています。今年5月には、人材サービス最大手のリクルート社が米国の求人検索サイト「Glassdoor」を12億ドルで買収し、グローバル展開の加速について大胆な声明を発表しています。

実際、このような市場の変革がDaXtraが昨年、日本にオフィスを開設するという意思決定をした要因になっています。グローバルなHRテクノロジー企業が日本法人を開設したのは弊社が最初かと思います。私たちのようなHRテクノロジー企業は、企業が求職者の検索をより効率的かつ効果的にするために必要な解析ツールを提供しています。

実際、日本の転職市場は旧態依然としており、いまだにほとんどの業務が手作業で行われています。しかし、今日、そもそも転職に対する考え方が海外に近い若手人材や、意識改革により転職により積極的になりつつあるシニアな専門家人材の方々と向き合い、かつ競争に勝つためには、役立つ優れたツールが必要です。

旧態依然の体質に危機意識が無い人材紹介会社に対して、市場で起きている変革、そして求められる対応策を説得するのは、そもそも靴というものを履いたことが無い裸足の島の住人を靴というものがなぜ必要なのか、ということを納得させようとするのと同じなので、ある程度の時間は必要だと思っています。

「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という諺にもある通り、よりグローバルに近づいている日本の転職市場で生き残っていくためには、グローバルで活用されているツールを使いこなして、一人一人の生産を高めていかないといけない、ということに「サラリーマン」という労働人口が劇的に減少している日本の人材紹介会社の方々もじきに気づくと思います。